【Vリーグ挑戦記】「音」が鳴らない、わからない。素人スタッフが挑んだPA(音源)
プロスポーツの会場を彩る大音量の音楽と躍動する選手たち。
Vリーグに初参戦した福岡ギラソールにとって、その華やかな演出の裏側は、まさに試行錯誤の連続でした。
今回は、知識ゼロのスタッフが、いかにして会場の「音」を作り上げていったのか。その裏側についてです。
11月:マウスひとつで挑んだ、静かなる開幕戦
2025年11月2日、3日。
東京サンビームズとのホームゲーム初戦。
会場に流れたのは、ノートパソコンにダウンロードした公式音源をマウスで一つずつクリックして流すという、今思えばあまりに心もとない音でした。
「音は出ている。けれど、何かが違う」
興行としての迫力には程遠く、プレーの合間に聞こえるのは、ボールの音と選手たちの声だけ。
華やかさとは無縁の会場を前に、スタッフの胸には焦りが募っていました。
12月:ITが得意だから? 突然の「音源担当」指名
そんな中、一人のスタッフに白羽の矢が立ちます。
「ITに詳しいから」
その理由だけで音源対策を任されたのは、事務局のスタッフオジサンズのA(以下、オジサンA)、つまり私でした。
ここからオジサンAの長く、いや実際には短く、険しい旅が始まります。
12月6日: SAGA久光スプリングス(照葉)の試合を視察。
プロの圧倒的な音響演出を目の当たりにし、「自分たちとの差」に打ちのめされる。
12月12日: 著作権のルールを知るためJASRACへの相談を開始。
12月16日: 「サンプラー? 」……専門用語の壁にぶつかり、YouTubeで動画を漁る毎日。
自分が使いこなせるイメージは持てず、不安と焦りだけが積み重なっていく。
後にサンプラーの他に、ミキサーやDJコントローラーなどの存在も知り、更に焦る。
知人にご相談するもApple社のアプリが前提で、、、Windows界隈では厳しい現実を突き付けられた。
ようやく見つけたWindows用のフリーのアプリで代用しながら、1曲ずつ手作業でWAV形式へ変換、登録、キーボード押下で音源のチェックをひたすら繰り返しました。
Vリーグ音源の準備が整ったのは、年末も押し迫った12月29日でした。
因みに年明けの試合は1月3日、4日はリガーレ仙台戦です。
1月:限界と運命の出会い
正月返上で他チームのアーカイブ動画を研究し、自作の台本を手に音源を鳴らす訓練を重ねた。
そして、ようやくアプリで音源を鳴らすところまで漕ぎついた。
しかし、1月3日、4日のリガーレ仙台戦で鳴らすことはできたものの、パソコンとアプリだけでは「瞬時の対応」や「音の微調整」ができないという現実に直面します。
「やっぱり、専用の機材が必要だ」
1月8日。
代休を返上したオジサンAは、藁をもつかむ思いで、ららぽーと福岡にある島村楽器様へ足を運ぶ。
「何をお探しですか?」
「……いえ、それが自分でも分からなくて……」
店員さんに事情を説明すると、待つこと20分。
現れたのが、後の福岡ギラソールの音を救うことになる救世主、トンプソンさんでした。
福岡ギラソールとして「やりたいこと」と「予算の限界」を汲み取ったトンプソンさん。
お勧めされたのはAKAI APC mini でした。
ご説明を聞き、お値段も予算の範囲でしたので、AKAI APC mini に決めました!
1月11日。
注文後、念願のAKAI APC mini を手に入れる事が出来ました!
AKAI APC mini を手に入れたものの試練は続く
海外のWebサイトからいくつかのアプリをダウンロードして、ノートパソコンにインストールしてみる。
そして、ノートパソコンとAKAI APC miniを接続。
うーん、操作が分からない。
1月14日、再び島村楽器様へ。
トンプソンさんに泣きつき、レクチャーを受けました。
AKAI APC miniを接続して、初めて音源がノートパソコンから出力された瞬間は今でも覚えています!
それほど感動しました。
また、ノートパソコンはLenovoのYOGAを使用しているのですが、スピーカーが良くて良い音源となりました。
これで一件落着!
とはなりませんでした。。
終わりの見えない「設定」という名の迷宮
ここからも大変なことが始まります。
ようやく手に入れたAKAI APC mini は、非情にも「英語版」。
ただでさえ不慣れな機材に加え、設定箇所は膨大にあり、そのすべてが当然のように専門用語でした。
オジサンAは、画面に出てくる単語を一つひとつGoogleで検索し、「これが何の項目なのか」を理解することから始めました。
しかし、言葉の意味がわかったところで、問題は解決しません。
そもそも基本知識がないため、何をどうするのかが理解できないのです。
そして、音響の世界は、複数の設定の組み合わせによって結果が180度変わります。
「これを変えれば、こう鳴るはずだ」 そう信じて設定を変えても、スピーカーから流れてくるのは、求めているものとは全く違う。
「これじゃない。でも、どれが正解なのかもわからない」
あらゆる設定の組み合わせを、一つずつ、しらみつぶしに試していく。
音源の変化を耳で確認し、また設定を弄る。
ゴールの見えない暗闇の中を、手探りで進む。
だけど無情にも時間だけが過ぎていきました。
1月17日、ブレス浜松戦。
設定できたと思い、当日の朝、関係者の方に一通り聴いていただきましたが、音源スピードが若干違うとのことで却下。
慌ててWindowsアプリで代替設定をしました。
今、白状しますが、Windowsアプリで代替設定に時間を要したため、リハーサルはなし。
ぶっつけ本番でした。
もっと言えば、全ての設定が間に合わず、試合中の合間に代替設定を続け、イベント音源や選手リクエスト音源の対応をしました。
試合中ですから、操作ミスで変なタイミングで音源を鳴らしてしまうとVリーグの歴史に汚名を刻んでしまうのでは??と、一瞬だけ思いましたが、その頃は割り切って作業していました。
リクエスト曲流せていない選手、ごめんなさい。
翌日、18日のブレス浜松戦は設定が終わっていたのでリハーサルも行えましたが、疲れすぎてフラフラでした。
14日夜から17日朝まで
トンプソンさんに対応していただいた1月14日の夜から設定との格闘でした。
3日後の1月17日にはブレス浜松戦ですから、寝ずに対応しても3日はありません。
はい、ご想像されている通りです。
いい大人が、いい年をした「おじさん」が、夜中に一人で機材と格闘しながら、何度も逃げ出したい気持ちに襲われる。
全部投げ出して、大声でわめきたい!
睡眠不足と責任。
その狭間で精神はボロボロでした。
それほどまでに、この「音」という壁は高く、険しいものだった。
だけど不思議。
今現在はできるので、その時の苦労が薄らいで、もう忘れそうです。
そういった意味でも、このことを記事にしています。
Vリーグに新規参戦されるチームさんで音源にお困りでしたら何なりと申し付けください。
お電話かホームページのお問合せからオジサンA宛てにいただければ、私が対応させていただきます。
自分を奮い立たせた「3つの名曲」
1月17日、18日、ブレス浜松戦。
ついに迎えた試合当日。
オジサンAは完全なる睡眠不足で体はフラフラの状態でした。
ちなみに、前日から装飾品の準備をしているので本当に体はボロボロでした。
しかし、自分が倒れれば音が止まる。
会場が静まり返る。
それだけは嫌だ。
そのプレッシャーの中で、折れそうな心を繋ぎ止め、自分自身を鼓舞するためにボン・ジョヴィのリビング・オン・ア・プレイヤーを流した。
その他にもa~haのテイク・オン・ミー。
そして、ロクセットのデンジャラス。
振り返れば地獄の日々も、今となっては楽しい思いでしか残っていない。
その他、台本もおちゃらけを入れたのも今回からでした。
機会あれば、台本編も記事にしたいと思います。
結実した成果と感謝
あの日の泥臭い格闘があったからこそ、今では導入コストからは想像もつかないほどのクオリティの演出へと成長しました。(と思っています)
あの地獄の日々があったからこそ、今の福岡ギラソールの音がある。
そして最後に。
右も左もわからないオジサンAに、プロの視点から最善の提案をし、心折れそうな時に支えてくださった島村楽器 ららぽーと福岡店 トンプソンさん。
あの時、あなたに出会えたことが、私にとっても福岡ギラソールにとっても最大の幸運でした。
本当にありがとうございました!
